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−−松本さんは初演(2005年)から奥坂雄三郎という役を演じていただきていましたが、初演の思い出ってありますか?

松本直人 思い出、っていうほどでもないんですけど、すごいヘトヘトになったっていう記憶しかないです。最初と再演(2007年)までは本当に、なんかくたばるまで動いたみたいな記憶が。で、楽屋に多分バナナ二本と栄養ドリンク二つとか置いといて、ちょっとだけ舞台から抜ける時があるので、

永井秀樹 はいはい。

松本 その時、補給してました。

永井 稽古中に、袖にいろいろ物が置いてある話をしてる時になっちゃん(岩杉夏)とか、遠藤(洋平)君が「松本さんはなぜかバナナを置いていた」って言ってました。2013年に再演した時には割と落ち着いた方向に変わったんですか?

松本 そうじゃないかなぁと思うんですけど、自分では見てないので、比較がうまく出来ないんですけどね。

永井 多分、年齢も重ねられて、もう2013年の再再演の頃にはいるだけで存在感が出てたんだろうなって気はしますけどね。



『ユー・キャント・ハリー・ラブ!』は

コメディだけど、コメディじゃない?


−−永井さんは、最初、台本を読んでみて奥坂雄三郎という役はどんな印象でしたか?

永井 どうだったかな? 単純に堅物の教授だなーぐらいの印象だけですね、うん。ニール・サイモン的な感じがしたんでジャック・レモンとかをふっと思い浮かべたりして。ちょっとエキセントリックなのかなぁと思ったりはしました。

松本 コメディは結構演じてらっしゃいますか?

永井 コメディはやってますけど、あんまり得意ではないかもしれないですね。元々、出がお笑いだったんですよ。

松本 そうなんですか?

永井 お笑い劇団みたいなところでギャグばっかりやってきたんだけど、やってるうちにその怖さを知ってしまって。これは出来ないと感じて。それ以来、コメディっていうと構えちゃうところは正直ありますね、うん。


−−青年団の作品もコメディってカテゴリーじゃないかもしれないですけれど、すごく滑稽だったり、笑える作品とかもありますよね?

永井 そうですね。だから、苦手っていうと言い方が変なんですけど、明らかにコメディをやりますよって言われると「うっ」てなる。例えばこれ(『ユー・キャント・ハリー・ラブ!』)にしたってコメディではあるけれど、僕はあんまりコメディをやる気はなくて。普通にちゃんとやってればお客さんは笑うところで笑ってくれるんじゃないかっていう風に思っています。

−−永井さんから松本さんに、聞いてみたいことありますか?

永井 聞きたい! 松本さんが苦手な台詞ってありました? あれいっつも言いにくい、とか。

松本 なんだっけ、俺、こないだのシーズンで一回どっか飛ばしたとかってことあったんじゃないかな?


−−出だしでつまずいたことは…。

松本 出だしでつまずいた? オープニングで(笑)

永井 飛ばしちゃったってことですか?


−−理屈として、あれ? 今おかしいこと言ったよな? みたいな感じになって。

松本 ははははは、そうだ、そうだそうだ。最初の頃はモノローグで一人で始めるっていうことが、やっぱり怖かったのかもしれないですね。

永井 最初のシーン1(注:教授の長いセリフから物語が始まります)ってのはなかなか…。

松本 そうですね。精神的なエネルギーがいる感じはありましたかね。


−−確かに始め方難しいですよね。本当、最初の出だしで乱暴にも出来ないし。

永井 いきなり一人芝居っていうのは結構…。そうか、確かにハードル高いかもしれないですね。あっ、怖くなってきた。

−−永井さんは今、難しい場面ってありますか?

永井 中盤が結構大変になるかなっていう気は。単純にいろんな人が入り乱れて、やんややるから。昨日も演出で言われたりしたんですけど、あんまりテンポよくコメディみたいに自分からならないで、と。本当に下手するとそうなりがちなので。

松本 あーあー、ドタバタみたいな。

永井 そうそうそうそうそう。


−−そうなんですよね、『ユー・キャント・ハリー・ラブ!』は激しいことが起きているようで、どっちかっていうとトロ火でずっとぐつぐつ煮込むような作品なんですよね。

永井 もしかしたら、この芝居ってそう動いたりしなくても、成立するんじゃないかなって思ってて。普通に会話劇としてやっても、そこそこ面白く見れるはずだけど、つい、やり取りが盛り上がってしまうんですよね。
 


13年で5回の上演。3人のヒロイン
 


永井 僕から松本さんに嫌な質問していいですか?

松本 えっ、はい。

永井 どの里絵(この作品のヒロイン)が一番良かったですか? 個人的に。

松本 意地悪だわ、この人(笑)。


−−いい質問ですね(笑)。初演と再演は、この作品の執筆を依頼してくれた劇団(Real I’s Production)の看板女優の安福展子さんでした。

松本 安福さんの里絵さんはすごく真面目な感じがして。劇中ではハグする場面はないですけど、最後の方のシーンで月の話をしているときに、ちょっとそういう衝動が起きてくる部分があったんですよね。多分、奥坂になかった母性的な…。

永井 包容力。

松本 包んであげたいみたいな感情を抱いたような気がする。

永井 なるほどねぇ。二人目が、曽我さん(ヒロイン対談参照)。

松本 曽我ちゃんは随所に出てくるんですよ、折れそうな感じが。見た目もそうだし。だから、包んであげるっていうよりは支えたくなる感じ。


−−では、前回2016年に続いて今回も演じる岩杉夏さんの冬樹里絵の印象は?

松本 夏さんの冬樹里絵は、役というより夏そのものの存在感が「にゅっ」て出てきて。それの印象の方が強い。里絵としてはシルエット的に曽我ちゃんとそんなに大きく変わらないんだけど、あの男勝りの感じが。
 

永井 普段のね。

松本 そうそう。だから後半激しくなってく以降の印象が強い里絵でした。


 


男として見た主人公、奥坂雄三郎

−−永井さんは今回、初めて奥坂教授を演じてる訳ですが、難しさというか興味深いところはありましたか?

永井 最初のイメージと違いますね。やってみて、奥坂教授は普通だなっていうことをすごく感じました。誰でもあるじゃないですか、恋をすると舞い上がっちゃうことは。それがズレて出てるだけで、そんなに我々と変わんないんじゃないかと。むしろ奥坂教授が一番まともで、周りでやいややいや言ってる人の方がおかしいんじゃないか、って最近はとらえるようにしてます。

−−そういう意味ではピュアですよね。奥坂教授は。

永井 ピュア。一番。

松本 ピュア、ピュアですよ。ピュア過ぎなぐらいのピュアですよ、うん。嘘つくぐらいピュアなんですよねってことですよね。

永井 そうそう、だから素直に嘘をつく。


−−先日、永井さんと「奥坂雄三郎のこれまで」みたいな話をしたんです。永井さんがおっしゃったのが、大きいトラウマがあったのではなくて、もっと小さいことの積み重ね、巡り合わせが悪くてこういう風に意固地になってたんじゃないかと。

松本 あー。

永井 徐々に徐々に。で、気が付いたら、女性が苦手になっていたのかなと。これは話したあとに思い出したんですけど…自分なんですよね、結局。僕も20歳くらいまでは実はそうだったんですよ。中学高校男子校で女の子に接する機会がなくて。でも女の子は普通に好きだし話したいとか思うし、で、学祭とかたまにナンパしたりして付き合うかなっていう感じになるんだけど…、免疫がないからどう接していいかわからない。好きな女の子から電話かかってきても俺興味ねーよ的な感じで。「どっか行く?」とか言われても「行かない」とか蹴っちゃうような。

松本 ツンツンだ。

永井 そう!本当はそうしたくないし、すごい嬉しいのにそれが出来ない。

松本 そういう意味で言うと僕も自分に思い当たる節がちょっとあるかもしれない。僕は中学生時代ぐらいまで、ほんっとに女子と話しが出来ない、そんな子だったんですよ。だからそもそも演劇始めたのは、演劇の中では女子と話しできるっていう、そこでしたからね。だから、そのままの自分を正当化すると…、もしかしたら奥坂雄三郎みたいになることもあるのかなって。自分にとって苦手な女性ってのは、そもそも価値の低いもんだ!みたいに、

永井 あー、はいはい。

松本 考えちゃえば教授みたいになるよねっていう。

永井 僕も役者になったんのは単にモテたいってのがきっかけですからね。一番モテない職業だってのに途中で気づいて。音楽とかやってた方が全然よかった(笑)。大失敗しました、本当に。

 

 


この公演は伝説になります

−−では、最後に松本さんから永井さんに贈る言葉を。初めて今回客席でご覧になるわけですよね。

松本 そうですね、そうなんですよ。とにかく観るのがひたすら楽しみです。

永井 楽しみにしてください。


−−永井さんはあちこちで伝説が生まれます、と豪語していて。

永井 それ、言っちゃってるんです。この公演は伝説になるから観に来いって。後に引けなくなっちゃった。
 

松本 あはははは。

永井 正直言って、松本さんが4回もやられてるから比べられるのは確実だし。意識してないつもりでも絶対どっかに意識はしてるんですよね。でも比べられても、それはそれでいいなとも思ってて。松本さんの方かよかったって言われるのもありだし、松本さんとぜんぜん違うって言われるのもありだし。二人の全然違う俳優がこの同じ役をやることを、どう評価されても面白いなっていう気が、今はしてますね。


−−全く違う二人が同じ役をやって、全く同じ印象を持たれたっていいわけですよね。

永井 そうそう。マネしてんじゃんって言われるのもそれは全然OK。…と言って、なんかすっごく正直、プレッシャーを抱えていて。でもすごく楽しみではある。観終わったらお話し聞いてみたいですね。

松本 ぜひ。観る楽しみがもっと増えちゃいました。また新しい一歩になるのかもしれませんね。


−−同じ戯曲、舞台を経験した役者同士が何かを語るみたいなシチュエーションが手に入るってこと自体、札幌ではとても珍しいことなので、上演後にすごい有意義なものが持てるかもしれないですね。今日はありがとうございました。
 

弦巻楽団『ユー・キャント・ハリー・ラブ!』は、今回の札幌演劇シーズン2018-冬レパートリー作品としての上演が5回目の再演となります。弦巻楽団の作品群の中でも屈指の人気舞台の主人公である、シェイクスピアを研究する教授・奥坂雄三郎を初演以来12年間、4度演じられた松本直人さんと、2018年バージョンで初めて奥坂雄三郎を演じていただく青年団の永井秀樹さんに、作品について語っていただきました。

聞き手:弦巻啓太

松本直人×永井秀樹(青年団)

Yuzaburo Ousaka talk

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