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温水元×小林なるみ×小野優×塩谷舞

ここ数年の弦巻楽団作品を支える頼れる4人に聞きました。「果実」や弦巻作品について。

稽古場日誌と合わせてお読みいただくと、よりお楽しみいただけるかと思います。稽古場日誌へ


----自己紹介からお願いします。

小野優:小野優です。紅玉琵琶丸役です。カメラマン、作家ですか。映像作家ですね。3回目です、紅玉琵琶丸。3回目ともなると、7年前と同じテンションを欲している弦巻さんとの、差が(笑)。体力的な戦い、肉体との戦いがかなりありますね。

----でも前より味は深まってると思いますよ。

小野:味はね、深まってるねー。

----楽にできるものを見ても感動しないんでしょうね。弦巻楽団には前々から出てますね。

小野:結構出てますね、去年、韓国行きました、「死にたいヤツら」で。

----だんだんなくてはならない存在に。

小野:弦巻楽団といえば小野優みたいなね。

小林なるみ:かっこいー。夏緑柚役の小林なるみです。去年、小野くんと温水さん、あとふかっちゃんとかと、韓国と道内を回った「死にたいヤツら」が弦巻楽団初参加でした。そしてその縁で、年明けの札幌演劇シーズンの「ユー・キャント・ハリー・ラブ!」に出させていただいて、その縁で今回も出させていただくことになりました。杏の母親役です。よろしくお願いします。

温水元:夏緑柿右衛門役の温水元です。この役は初めてですけど、弦巻楽団には毎度毎度お世話になってまして、過去にどれくらい出たか数えられないので数えませんけど、10年以上出させていただいてます。「死にたいヤツら」では一緒に韓国にも行きましたし、10年以上上演する作品にもなってますし、塩ちゃんとは「サウンズ・オブ・サイレンシーズ」でも一緒にやらせていただきまして、ここにいる4人はもう過去に既に何度かご一緒させていただいているってことで、今回も一緒に頑張って楽しい作品を作ってけたら…、楽しい作品??面白い作品を作っていけたらいいなと、自分も楽しみにしています。

塩谷舞:北上梨世子という医者役をやります塩谷舞です。私はですね、実は、2014年の8月に小野さんと温水さんが出演している「死にたいヤツら」を拝見しました。その時パンフレットに挟まっていたオーディションのチラシを見て「ナイトスイミング」の出演者オーディションを受けて今ここにいます。同じ8月に違う劇団さんですが、なるみさんが出演している舞台も拝見しててっていうご縁が、不思議だなと思いながら毎日稽古しています。

----みんな弦巻楽団ではいろいろやってきてると思うんですが、今回「果実」は小野さん以外のお三方は初めて。これ、27歳の時に書いた台本なので、最近の作品とはテイストとか違うと思うんですけど、今回参加してみていかがですか。

温水:そこはかとなくヒステリックエンド(*1)感はあるよね。

----どんなところがですか?

温水:ドラマチックだなぁと。最近の弦巻くんの作品はドラマチックじゃない方向性のドラマを描いてると思うんですけど、「果実」はドラマチックさが前面に出てきている作品だなと思いますね。僕はヒステリックエンドのファンでよく観てたんで、他の作品もたくさん観てますけど、そういう意味で「ああヒステリックエンド感あるな」って思いますね。

----なるみさんはいかがですか。

小林:私は「死にたいヤツら」「ユー・キャント〜」と昔の作品が多いので、差というよりは、弦巻くんの文体って独特なんだなと思います。日本語の流れじゃないですよね。翻訳した作品の文体に近くて。自分の日本語の構造ってあるじゃないですか、一回変換させて、みたいなやり方を発見するまでちょっと時間がかかって。

----先に結論をいう、というか、述語から入るっていう傾向はあると思います。

小林:そうか翻訳の本を読んでるのに近いんだ、と思って。それはへぇって思いました、新鮮。でも私、なかなかの年になってきたから、新しいものに出会う数って多くないし、その中で新しいものと出会わせてもらっているのは嬉しいですね。

----嬉しいです、新しいものと捉えてもらえるのは。 塩谷さんは逆に最近の書き下ろし作品に出てますが、比べて今回の作品はどうですか?

塩谷:文体とか私はあまり意識したことがなくて。前回が「サウンズ〜」で、いろいろ考えて役作りをしたあとに「果実」って作品が来て、自分の中で何をどこまでやっていいのかわからなくなって。役の作り方とか、全体を見た時の人の配置とか、全体の見方とかが全然違って、ちょっとまだわからないです。どこまで振り切っていいのかがわからない。

温水:それは「ナイトスイミング」を経た後の「サウンズ〜」の時にもあったんじゃない?

塩谷:ありましたね。でも、「ナイトスイミング」は右も左もわからなかったので、無我夢中で先輩がやることをとりあえずどれだけ盗めるか、ってことしか考えてなくて。役作りとか全体を見るとか全く考えてなかった。「サウンズ〜」の時は4人だったじゃないですか。その4人をどう見せるかとか、自分がその4人の中でどうあるかっていうのをちゃんと考える時間があったので、そこで考えたことがまだ自分の体に染み付いている。「果実」と全然ベクトルが逆、でも「ナイトスイミング」の時のことを振り返ってそれを持ってくるっていうのも違うな、っていう。それもまたできないので、逆に難しい。

----北上先生っていうのが難しいポジショニングだからね。

小野:あれは難しいと思うね。

温水:口数は少ないけどずっといるっていうね。

----そこにいて、事実を繋ぎとめなきゃいけないっていうか、ファンタジーに流れ込むのを食い止めないとならない役だからね。今回の桃太郎役のダブルキャストについてはどうですか。

小野:俺ね、弦巻さんは「果実」をより完成度の高いものにしようっていう意気込みがあるんじゃないかと感じてるんだよね。

温水:それはどういう策略で。

小野:主役が二人いて、それぞれに演出のつけ方がちょっと違うじゃない。単純にお客さんを楽しませたいってのもあると思うけど、この男はね、昔の作品をね、今大人になった時に、中身はクソガキなんだけど(笑)、より深みのあるものにしたいんじゃないかなっていう風に感じてるんだよね。どんな面白いことをやるのかなーって、演出しているのを見てる。

温水:今回の二人、過去にこの作品をその役でやったことがある二人なわけじゃない。それを同じ公演期間でダブルキャストにする、稽古を同時にやりながらお互いが、相手がやってる自分の役を見ながらやるっていうことに大きな作用というか化学反応が起こるんだろうなってことを楽しみに見てる。過去に自分がやった桃太郎とは違ったことが、お互いに見合ったり話し合ったりすることで何か起こるんだろうなってことはこの人も考えてると思います。

小野:深浦くんは深浦くんで、村上くんのことを見てたら、「あいつクソだな」っていってるし、村上くんは村上くんで、深浦くんのを見ると、「あいつのお芝居クソだな」って、いい意味で悔しがってるような。

----口を開けばリスペクトするんだけど、絶対心の中では対抗意識がある。

小林:見事に真逆ですよね

----質的にはそうですね。4人は僕が二人に接しているのを見てて、それぞれ変えてる部分に気付いてると思うんですけどね。あの二人、昨日くらいに気付いたんですけど、自分じゃない方が桃太郎やった後に稽古に入ると、ちょっと意識してたり、影響受けてるなって思うところがあるんだよね。

小野:ああ。

小林:ありますね。

----いい具合にお互い盗みあって作用していくといいなと思うんですけどね。

温水:結果的には二人が違うから、ずっと同じ役をやってる我々にもどう考えても影響を与えて違ったことになっていくんだよね。

----どうですか、どっちがやりやすいですか?(笑)

温水:どっちがやりやすいっていうか、人が変わるとやりにくいっていうのは確かにある。ルートが変わっていくから自分もね。

----内面のルートですね。

温水:変わっていくけど守らないとならないルートもあるし。まだ稽古する時間もあるので楽しみです。

小林:チラシを配った時に、どっちがいい?って聞かれるのが困る(笑)。役者としては、もし自分がダブルだったら寝てられないし精神病むくらいに悩むと思うけど、やった時の自分に対しての収穫はあるんだろうなと思ってちょっと羨ましい。それを稽古場で進行形で見届けられる、母さんの気持ちですね。よくもここまで、みたいな。それは楽しい。

----どうですか、塩ちゃん。

塩谷:私は役のせいもあるのかもしれないけど、桃太郎にはあまり感化されないというか、どっちがどうきても、医師という立場で、あまりコミュニケーションとらないので影響をそんなに受けてない。役者としてスキルを上げるためには影響を受けなきゃいけないんじゃないかと思うんですけど。刺激にはなるし、全然手触りが違うなって思います。セリフも一緒だし着地点は一緒なんだけど、二人が目指してる桃太郎像のベクトルが違うというか、手触りが全然違うものになるんだって目の当たりにしてびっくりしてます。

----最後にメッセージを。

小野:僕はね、この「果実」っていう作品に出演するのが3回目なんですが、自分が舞台上に立っているにもかかわらず、必ず、お父さん、夏緑柿右衛門の台詞の中で泣くシーンがあるんですよ。

 (一同笑)

小野:ついつい。泣くようなキャラとか役じゃないにも関わらず、その話を聞いてるとついつい涙が浮かんできてしまうシーンがあるんですよ。舞台に立ってる人でもホロリとしてしまう作品、ぜひ観に来ていただきたいと思います。

小林:最近、自分で関わってきた作品であんまり直球の青春っていうのに触れてなかったなって気付いたんですよね、「果実」をやって。青春って、自分で喋るとこっぱずかしいし、若い子には恋をするとか青春を謳歌するとか、そういう熱量を感じてもらえると嬉しいなっていうのと、青春っていつだっけ、って思う私と同世代の人たちには、そうそうこういう熱量ってよかったよね、とか。いろんな世代にそれぞれの熱量を感じてもらえると嬉しいかなと思います。

温水:優くんともども、体力的な衰えと格闘しないといけない作品なんで。

小林:私もー。

温水:夏という季節もありますし、汗ダラダラかきながら毎日苦しんでるわけですけど、産みの苦しみ、苦しまないといい作品ってできないと思うんで、体力の限界まで苦しんで。ドラマチックな作品なんですけど、絵面や言葉づらにはない、各々の中でせめぎ合ってるものが滲み出すような作品になるんじゃないかなと思うので、皆さんぜひぜひお越し下さい、サンピアザまで。

塩谷:どうしよう、こういうの苦手なんです(笑)。皆さんがとてもいいことを言ってくださったので私は何も言うことがないんですけど。桃太郎くん二人はすごく素敵ですし、杏ちゃんはキラキラしていて、胸を打たれると思いますのであまり難しいことを考えずに胸を打たれにきてください。


                                                                                    聞き手:弦巻啓太  8月4日収録

*1 ヒステリックエンド=TheaterUnit HystericEnd。弦巻が若い時分に参加していた劇団。弦巻楽団作品で言えば「果実」のほかに「ラブレス」もヒステリックエンド時代の作品です。

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