弦巻楽団#25「果実」

深浦佑太×村上義典 対談
スペシャル対談第2弾は、ダブルキャストで眠り続ける桃太郎役を勤めるお二人が登場です。大学演劇部の先輩後輩で、普段からとても仲の良い(稽古場ブログを参照してください)二人が、今回の「果実」について語ります。
----ダブルキャストと聞いた時のお気持ちから聞かせてください。
村上義典:めっちゃイヤだったです。
深浦佑太:僕もイヤでした。僕は、村上バージョンの「果実」(2009年)を観て面白かったので、「やりたいです」って弦巻さんにお伝えをして、その上で「果実」がやれて「やったー」って思っていたので、その村上とダブルキャストをやるっていうのは複雑な気持ちがあります。
村上:深浦くんは大学の先輩で、もともと大学の頃から面白いって言われてて、最近の札幌演劇界では飛ぶ鳥を落とす勢いの…、
深浦:やめろやめろ。
村上:深浦くんとダブルっていうのがそもそもイヤだなって気持ちがあったし、「ラブレス」(弦巻楽団#15、2011年)に深浦くんも一緒に出てて、めちゃめちゃ面白くて。勝ちたい気持ちでやるじゃないですか。でも、完敗だと思ってすごく悔しい思いをしていたので、そんな深浦くんとダブルキャストはまじでイヤでした。
深浦:大学時代、客演とかにバンバン出ていたのは村上の方で。
村上:バンバンっていうか大学生の頃からプラズマニアだったり、弦巻楽団だったり。
深浦:だから外部活動をよくしてるなって思って見てて、嫉妬もあり、モヤモヤしたところもあり。
----深浦くんの劇団にも村上くんに出てもらったりしてたよね。
村上:あれもすごい面白かったですよね、いい作品で。
深浦:村上くんと絡むと面白いんですよ。
村上:それは本当に僕もそう思っていて。
----どう面白いの?いろんな面白さがあると思うけど。
深浦:張り合いがある、気がします。主にバトルする役しかやってないんですけど、こういったらああ返すっていうのが、意図をくみ取りつつ予想と違うとこから返してくるので、そういうところはやってて楽しいです。
村上:びっくりした、こんないい話になるんですね。
深浦:言ったことなかったっけ?
村上:そんなことはあんまり。やりやすいねとか楽しいとかは言ってくれるんですけど。
----村上くんは言わないの?
村上:僕は本当に嫌いです(笑)。早く才能枯れればいいなといつも思ってます。僕は面白い人が嫌いなので。
深浦:やめてや!
村上:深浦くんとやって楽しいなと思うのは、僕が思いつかないことをまずやってくるっていうのが当たり前のようにあって、僕が出したのをちゃんと聞いてて、それに対して変えてくる、その場で生まれるものっていうのがあって。
深浦:現場で試行錯誤できる。当たり前なんですけど、それがやりがいがあるレベルでできる。
村上:試してああだったね、こうだったね、じゃあ持ち帰るかって言って持ち帰って。こういう作業ができる環境って意外となかったから、楽しい。あと安心する。
深浦:そうそう。余計なカロリーを使わない。
村上:聞き上手です。
深浦:君も聞き上手だよ。
村上:そんなことない、僕はあんまり得意じゃない。
----前回、出演した時のことって何か覚えてる?
村上:それこそ弦巻楽団にちゃんと出させてもらったのは初めてで。その前に「間奏曲」(ワークショップ公演。永井愛の「こんにちは、母さん」を上演)に出たことはあったけど。
----その流れで、盛り上がっちゃってね。
村上:それについて僕は言っておきたいことがある!これは記録に残して欲しいんですけど、1分だけもらっていい?「間奏曲」ってワークショップ公演で、僕はワークショップ受けてないのに人が足りないからって出ることになって、その時、弦巻さんと初めましてで。その小屋入りしたくらいの時に、弦巻さんに「村上くん次回の公演ちょっと手伝ってもらっていいかな」って言われて、「ちょっとくらいならいいですよ」って答えて。その何日か後に「もしかしたらちょっと出てもらうことになるかもしれない」って言われて、「ちょっとなら都合つくんで大丈夫だと思います」って話して、顔合わせで台本もらってどの役ですか、って聞いたら桃太郎。おかしいでしょ!舞台にいない時間が10秒くらいしかない作品に「ちょっと手伝ってもらえるかい」って出す!?(笑)
----21歳の若者にね。
村上:俺、世間知らずだったなって思ったもん!
深浦:びっくりしますよね、給水ポイントゼロだもん。
----それが初演の思い出?
村上:それが一番強い思い出です。
----本番中とかはないの?
村上:本番中はいっぱいいっぱいで、弦巻さんもそこそこ厳しい時代で。
----桃太郎は高校出てからの10年いろんな経験をしてきたっていう設定、当時にしてみたら大人な役にチャレンジしたわけですけど、そのことについては?
村上:その当時、印象深くて、今も大事にしているのは、今も素直なんですけど、当時もっと素直だったんで、台本に書いてあることをすべて是として言葉に出していたんですね。「真っ暗な闇みたいな未来を選べるか」っていうセリフがあって、なんでそんなかっこいいセリフをかっこいいまま言えるの?とかダメ出しされて。でも台本に書いてあるから素直に、自分の言葉として言ってた。「悲しい話をなんで悲しく喋るの、悲しい話は明るく喋ってるのを見て人は悲しくなるんだよ」ってダメ出しは今まで受けたことはなかったから。一個回した芝居の表現っていうのは、当時勉強になりました。違う作品でも自分の悲しい気持ちを吐露する時に、「人に話す時って笑い話として話すよな」とか考えたり、対、人っていう時の表現はすごく勉強になった。
----いい話ですねー。誰が言ったのそれ?
村上:弦巻さんです!…というまじめなこともあったりした。
----深浦くんは、その時のことで何か覚えてることありますか?
深浦:それまでにも何作か主役をやらせていただいた時はあったんですけど、その時とはまるで違う役だったにも関わらず、それまでの方法論でやってしまったことに後になって後悔するっていうのがあったんです。村上くんが言った、すべてを是とするじゃないですけど、純真で感情移入しやすくて、お客さんに優しい演技をしようっていう時期だったんです。それでそういう演技をしていたんですけど、今になって考えると、そうではないと思うようになって。
----そうなんだよね。そこまで致命的な何かとは思わないんだけど、振り返ってみると「果実」のときのアプローチは他の作品に出てもらった時と違ったなって振り返って思った。
深浦:村上くんのを観てて、弦巻楽団ってきれいな作品を作るなって印象だったんです、ざっくり言うと。すごくきれいな世界観でしっかり作り込まれてっていう印象があって、それに引っ張られてアプローチが違ったのかも。だから改めてやれるのはすごく嬉しい気持ちがあります。
----エピソード的に覚えてるところは?嫌なことでもいいんだけど。ダメだしのこととか。
深浦:あんまりダメ出しをされてなかった気がしたんですけど。本番のちょっと前の稽古の時から急に言われるようになった覚えがあって、複雑でもありちょっと嬉しくもあったりした気がします。
村上:すごい心折れるじゃん。
深浦:初日前の最後の合わせの時に、「こここうじゃないよ」みたいな感じで言われて。ここで言うんだ、って複雑だったけど、ちょっと嬉しかった。
----覚えてるのは、ヒロインの杏と仲良くならないでってことはずっと言い続けてた。
深浦:僕はその当時、相手の役者と仲良くなった方がいいと思っていた時期だったんです、だからより仲良くなろうって感じで頑張っていたんですけど、そうではないことに最近気づいた。
----受け入れ上手なんだよね、聞き上手だから。相手の言ったことを受け入れて面白く返すみたいなところがあるから、そんなサービス精神いらないんだよってことなんだよね。こいつ(村上)はちっともサービスしないんだよね!
村上:ぼくは仲良くなってしか言われないから。
----真逆。
村上:もっと心開いてってしか言われない。
----閉じてって言われるもんね。
深浦:そうそう。似てるみたいなことも君が言うじゃない。でも多分、真逆だと思うよ、スタンスとしては。
村上:改めて同じ役をやってみると、ああそうやってやるんだ、とか、確かに言われてみると全然違うなって思ったりしながら、稽古を見てます。
深浦:そう、稽古見るのは楽しい。やる前はええって思ってたけど。
----稽古の間、相手がやってたイメージがちらつくことはない?
深浦:今のところはないです。今日ちょっと代役で立って見て、その場に立ってみたらちょっともやもやしますね。
村上:僕はやってて深浦くんがいたらなとなく俯瞰でみちゃう。冷静に考えるとやっぱりダブルはイヤですね。一緒に出たいなって思います。
----「果実」はどういう作品ですか?
深浦:最初に受けた印象はラブストーリー。最初に取り組ませていただいた時もトゥルーラブストーリーだと思って全力で取り組んだ。今考えてみると、恋だの愛だのより、命とか生きるにあたって、どういう状態でいる人間がいるか、みたいな話なのかなって。
村上:難しいこというね。
深浦:俺も言っててよくわからなくなってきたけど、杏に対してとか、お父さんお母さんに対して、会話だとか場面ってなっても、恋とか愛とかが、以外とちらつかないから、ラブストーリーとは言えない。
村上:ラブストーリーだと言えないなっていうのはすごく共感できる。
深浦:どうしようもないところに抗い続ける話なのかなっていうのは今回改めて思います。過ぎてしまった過去とかを、過ぎてしまったんだけど取り戻すために頑張るとか。終わってしまった何かに対して改めて取り組む。それが滑稽に見えたりだとか、少し感動的に見えたりだとか、そういう話だなっていう気はします。
村上:脳死って言われてさ、柿右衛門のセリフで、「ただ血液が循環しているだけ」って、言ってみればものみたいに言ってるわけじゃないですか、あの感覚はすごいなって思う。どこからどこまでがじゃあ生きてる人ですかっていう話で。それについてはぼくはわからない。
----最後に、観に来てくださる方々にメッセージを。
深浦:理想はどっちも観に来てもらいたいです。
村上:もちろん精一杯頑張って僕なりに一生懸命やるので、是非、僕が桃太郎をやる回を観に来てくださいって気持ちもあるんですけど、どうせ深浦くんのやつ面白いから(笑)、どうせ面白いから、ぼくが人に無関係で勧めるんだったら深浦くんの絶対面白いよって勧めるけど。でも今回は僕も出るから、深浦くんの観にいくといいけど、僕の方も観に来てね、じゃあどっちも観てくださいって結論に落ち着く。どうせ面白いんだよ、嫌いだよ。
深浦:好き、俺は好き。
村上:うるさい、俺は嫌いだ。
深浦:俺もは村上くんの「果実」を観ての前の「果実」だっりとか、その印象が強い。僕が純粋に感動した「果実」がまた年月を経て、新たな考えも足されて舞台に乗っかるっていうのは、純粋に楽しいですし、僕も前回から新たな形で一生懸命やるので、どっちもお勧めしたい気持ちです。僕もたぶん村上くんの「果実」は楽しみに観るし、自分がやるところは一生懸命やるし。
村上:すごい素直な気持ちとして、「負けるつもりはないけど勝てる気はしない」(笑)。ホントこの一言に尽きる。この話を受けた時に速攻で言ったのがこれ。嫌いな先輩。
深浦:俺は好きだ。
聞き手:弦巻啓太 7月25日稽古場にて収録